今回は、中山道にあった宿場町の一つ、蕨宿をご紹介いたします。
埼玉には9つの宿場があり、なかでも最も栄えていたのが蕨宿です。
江戸情緒を残す街並みを散策しながら、蕨宿の歴史を知り、和の味を堪能する、おすすめのぶらり旅をお楽しみください。
※掲載内容は執筆当時のものです。最新情報は事前にご確認ください。
中山道六十九次(なかせんどう ろくじゅうきゅうつぎ)とは
「中山道六十九次(なかせんどうろくじゅうきゅうつぎ)」は、江戸時代に栄えた五街道の一つ、中山道に設けられた69ある宿場のことを指します。
中山道は、五街道(東海道、日光街道、甲州街道、奥州街道、中山道)の中で、宿場の数が最も多い街道です。
江戸(日本橋)から三条大橋までの約526.3kmは、険しい山道が多いことや内陸部の冬の寒さが厳しいこと、積雪での通行が困難になることなどから、多くの宿場を設け、一日の距離を短くしたといわれています。
また、中山道は「姫街道」とも呼ばれ、皇族や公家の娘が京都から江戸に嫁ぐ際に通行していました。
埼玉県内を通る中山道は、戸田市から本庄市までの約75kmあります。
そして県内には、蕨宿、浦和宿、大宮宿、上尾宿、桶川宿、鴻巣宿、熊谷宿、深谷宿、本庄宿と、9つの宿場がありました。なかでも蕨宿は、浦和宿や大宮宿よりも大きな宿場町として栄えていました。
このあと、中山道の大宿場町となった蕨宿の歴史をご紹介していきます。
蕨宿の歴史
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中山道の宿場町である蕨宿は、江戸から二つ目の宿場として、1612年頃に成立したといわれています。
蕨宿は南北に約1,090m広がり、本陣2軒、脇本陣1軒、旅籠23軒、家数430軒が立ち並んでいました。
そのなかには、穀物や菓子、木材などのさまざまな物を扱う店や豆腐屋、たばこ屋、髪結いを職業にする人など、2,223人(1843年)の人々が暮らしていました。
参勤交代の大名や旅人など多くの人が行き交い、年に2回行われる「市」が、さらに賑わいを見せていたといいます。
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蕨宿は、用水堀に囲まれていたのが特徴です。この用水路は、外部からの攻撃を守り、防火用水の役割をしていました。
そのため、家の裏手には「はね橋」を設置し、出入りをしていたといいます。この「はね橋」を引き上げると、家の中に入れないことから、防犯効果にもなっていました。
現在では、蕨市内で1軒のみ、復元した「はね橋」を見ることができます。
また、蕨宿が大きく栄えたことの一つとして、綿織物があります。江戸時代後期から、塚越村を中心に綿織物業が盛んになりました。
そのきっかけは、イギリス製の糸や最新の化学染料を入手した「高橋新五郎(たかはししんごろう)」が作る「双子縞(塚越双子)」です。
当時の最新技術を使い、試行錯誤を繰り返し誕生した「双子縞」は、鮮やかなストライプの斬新さが評判を集めました。
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そこから、蕨を代表する「双子織」に発展していきます。
歴史をたどっていくと、中山道の69ある宿場のうち、蕨宿が5指に入る大宿場として栄えたのもわかりますね。
このような歴史ある蕨宿を、実際に体感してみてはいかがでしょうか。このあと、蕨宿の歴史を感じる、おすすめの場所をご紹介していきます。
蕨宿ぶらり旅におすすめの場所
JR蕨駅西口から約1kmある「西口駅前通り」を抜けると、当時を感じる風情ある家や商店が見えてきます。
ぜひ、ゆっくりと歩きながら探索してみてください。南北に約1,090m続く中山道は、宿場町の雰囲気を感じるおすすめの散歩コースです。
足元の歩道に目を向けると、中山道六十九次の浮世絵を見ることができます。
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また、蕨のキャラクター「わらじろう」と「わらび宿」の文字が描かれた、マンホールや下水溝のふたにも気づくでしょう。
商店の入り口に飾られた「双子織のれん」を見れば、双子織の歴史を感じますね。
ここからは、ぶらりと歩きながら蕨宿の魅力が深まる場所を、4ヶ所ご紹介いたします。
蕨宿ふれあい広場
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まずは、蕨宿の入り口(浦和寄り)にある「蕨宿ふれあい広場」からご紹介いたします。
「蕨宿ふれあい広場」は、蕨宿の歴史を感じながらひと休みできる場所です。
大きな木を囲むようにベンチがあるので、そこで広場を見渡してみてください。
壁面に描かれた大名行列を眺めていると、当時の様子がうかがえるでしょう。
また、火の見やぐらをモチーフにしたカラクリ時計の火消し人形が、時間を知らせてくれるのを待つのもいいですね。
将棋板が埋め込まれたテーブルは、宿場町で将棋を楽しむ雰囲気が味わえますよ。
ゆったりとした時間の中で、江戸の文化を楽しんでください。
蕨市立歴史民俗資料館
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つづいては、蕨宿の歴史を詳しく知りたい方におすすめの「蕨市立歴史民俗資料館」です。
ここでは、中山道の宿場町として栄えた当時の様子を、貴重な資料と共に展示しています。蕨宿の街並みを再現した場所に一歩踏み入れると、江戸時代にタイムスリップしたかのような情景に包まれるでしょう。
なかでも、当時の様子を1/200に縮小した模型は、蕨宿の活気ある声が聞こえてくるような気がします。また、本陣や旅籠、商家の復元は、部屋の様子がうかがえ、実際に訪れたように感じます。
館内には、蕨宿に関する古文書や実物資料も多く展示していますので、蕨宿の歴史を知る貴重な時間を体験できるでしょう。
蕨市立歴史民俗資料館【分館】
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つづいて、「蕨市立歴史民俗資料館分館」では、時空を超えた体験ができるでしょう。
「歴史民俗資料館」から220mほどの場所にある「分館」は、明治時代に織物の買継問屋だった家をそのままに残しています。516坪の広い敷地には木造の平家が建ち、母屋や蔵、店舗を見学することができます。
今よりも低い天井や和室の畳、木の温もりは、どこか懐かしさも感じるでしょう。明治20年に造られた店舗部分では、昔の電話ボックスが見られるのも貴重ですね。
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趣ある木造の平家もすばらしいですが、ここでの見どころは庭園です。
四季を彩る花木が池を囲み、季節ごとの楽しみがあります。3月始めごろには、梅の花が春の訪れを感じ、鳥のさえずりが心を落ち着かせてくれます。すぐ横を国道17号が通っているとは思えない、穏やかな空間です。
ぜひ、美しい日本庭園をご覧になってください。
復元された蕨本陣跡
さいごにご紹介するのは、「蕨市立歴史民俗資料館」に隣接する「蕨本陣跡」です。
「本陣」は大名や公家の休泊所であり、庶民が利用することはできませんでした。蕨宿の本陣は、加兵衞(かへえ)家と五郎兵衛(ごろべえ)家が代々務め、加兵衛本陣は、老中水野忠邦や松平加賀守などが休泊しました。
また、1861年には、皇女和宮(こうじょかずのみや)が御降嫁の際、休息の場となり、本陣当主がみかんやぶどうを献上しています。
そして、1868年と1870年には、明治天皇が大宮氷川神社へ行幸した際の小休所にもなりました。その加兵衛本陣の入り口部分を復元したのが「蕨本陣跡」で、蕨市指定文化財の一つです。
蕨宿の本陣が重要な役割をしていたことがわかりますね。「蕨本陣跡」を眺めていると、厳かな雰囲気を感じることでしょう。
蕨市でランチにおすすめのお店
さて、中山道の宿場町文化を体感したら、お腹も「和」で満たすのはいかがでしょうか。
ここからは、中山道沿いでおすすめのランチや和菓子をご紹介いたします。
この街道で四〇〇年【うなぎ 今井】
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蕨宿といえば、創業から400年以上続く老舗の「うなぎ 今井」が有名です。
「うなぎ 今井」は蕨宿を利用する旅人から評判が広まり、江戸時代から現代まで、多くの人たちに愛され続けています。
お店の前を通ると、うなぎを焼く香りが漂います。この香ばしい匂いは、歩いている時だけではありません。閉め切った車の中までも誘うように流れてきて、行き交う人の食欲をかき立てています。
「うなぎ 今井」は2021年に改装し、落ち着きのあるモダンなお店に一新しました。そのなかでも、変わらない老舗の味が楽しめ、歴史と新しさの融合が魅力になっています。
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外はパリッと香ばしく、中はふっくらとしていて、旨みがぎゅっと詰まったうなぎは代々受け継がれた深みのあるタレが絡み、どんどんほお張る美味しさです。ぷりぷりの肝が入った、肝吸いも人気を集めていますよ。
うなぎを食べて、宿場町の文化を感じるのもいいですね。
宿場弁当(限定5食!)【中仙道山あつ】
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つづいては、蕨宿で人気の和食店「中仙道山あつ」をご紹介いたします。
「中仙道山あつ」の店主は、和食の名店で腕を磨き、生まれ育った蕨市にお店を構えました。店主が作る料理は、味はもちろん、見た目の美しさも評判です。
ランチでは、天丼や天麩羅御膳、刺身御膳など、数種類の和食が味わえ、11:30の開店と同時に十数席が次々と埋まっていきます。
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なかでも、限定5食の「宿場弁当」が大変な人気を集めていて、開店して数分後には完売するほどです。
宿場弁当は、刺身や焼き物、煮物、揚げ物など、夜のフルコースを少しずつ味わえる、お得感が人気の理由でしょう。
また、自家製豆腐もぜひご賞味いただきたい一品です。
リーズナブルな和菓子もおすすめ【船橋屋菓子司】
さいごに、蕨宿に訪れたらぜひ立ち寄っていただきたい、和菓子屋をご紹介いたします。
その和菓子屋は、1916年創業、100年以上の歴史がある「船橋屋菓子司」です。
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「船橋屋菓子司」では、団子や饅頭、いなり寿司、赤飯など、昔ながらの和菓子屋の品が、お手頃な価格で味わえます。8時の開店から午前中で売り切れてしまう商品があるほど、人気があります。
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「わらび宿」の焼き印をしたどら焼きや、蕨市のゆるキャラ「ワラビー」の形をした饅頭「わらびくん」は、お土産にも喜ばれていますよ。
また、今が旬のいちご大福もおすすめです。
指でつまむと潰れてしまいそうな触感と、口の中でとろけるほどの柔らかさ。なめらかなこしあんは舌ざわりが良く、甘さ控えめ、甘酸っぱい苺とのバランスも絶妙です。
人の温もりと優しさを感じる和菓子で、季節を楽しむのはいかがでしょうか。
中山道にある埼玉最初の宿場町【蕨宿】で江戸気分を味おう
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いかがでしたか?
今回は、埼玉に9つあった宿場町の一つ、蕨宿をご紹介いたしました。蕨宿は、江戸時代に栄えた文化を今も大切に残しています。
今回ご紹介した以外にも、毎年11月に行われる「中仙道武州蕨宿 宿場まつり」では、宿場町の活気ある雰囲気を、お祭りを通して感じられるでしょう。
まずは、埼玉で最初にできた宿場町を、ぶらりと旅してみてはいかがでしょうか。
埼玉で生まれ育ち、40年以上埼玉に住む、生粋の埼玉人です。埼玉の魅力を楽しく発信していきます!
#中山道六十九次 #宿場町 #ぶらり旅