ここでは、埼玉の雛人形をご紹介いたします。
埼玉は雛人形の生産量が最も多い県です。今回、県内でも有名な地域(岩槻・鴻巣・越谷・所沢)の雛人形の歴史や特徴、イベント、人形供養祭について、お届けいたします。
秀技な埼玉の雛人形をお楽しみください。
※掲載内容は執筆当時のものです。最新情報は事前にご確認ください。
埼玉の伝統産業「ひな人形」
埼玉は、雛人形の出荷額が日本一の県です。1962年から50年以上も連続一位を誇っています。
2019年の全国での雛人形出荷額は、88.94億円でした。そのうち埼玉は43.89億円。全国シェアは断トツの49.3%です。(経済産業省「2020年工業統計表」より)
埼玉は、江戸時代に日光街道や中山道の宿場町として栄えたことに加え、豊富な水源があったこと、桐などの材料に恵まれていたことから、雛人形作りが始まりました。
伝統技術を受け継ぎ、頭、手、胴体、髪、着付けなど、それぞれの専門職人が江戸時代から変わらず、一体一体に心を込めて手作りをしています。
土地柄と職人の高度な技術が、埼玉の伝統産業として発展しました。
雛人形は、「お雛さまのように美しく健やかに、そして幸せになりますように」と、子どもへの思いを込め、家族のきずなを深める存在です。
職人や家族など、さまざまな人たちの願いが込められた埼玉の雛人形は、芸術品とも呼べるでしょう。温かな心が美しい雛人形となり、日本で一番になった理由ともいえます。
このあとでは、有名な4つの地域、岩槻、鴻巣、越谷、所沢の雛人形をご紹介していきます。
埼玉の雛人形生産で最も有名な街【岩槻】
まずはじめにご紹介するのは、埼玉の雛人形のなかでも最も有名な「岩槻」です。
岩槻は全国有数の人形の産地で、「人形のまち」として知られています。2007年には、経済産業大臣指定の伝統的工芸品に認定されました。
岩槻の街を歩いていると、人形店や工房の看板が多く目にとまります。「人形のまち」らしい風情を感じる街並みです。
岩槻人形は約400年前の江戸時代初期に始まり、「日光東照宮の大造替」、「日光街道の宿場町」、「桐の産地」、「豊富な水」の4つのポイントがきっかけとなります。
「日光東照宮の大造替」により、全国から腕の良い職人たちが集められ、江戸と日光をつなぐ「日光街道の宿場町」であった岩槻に、職人たちが住むようになります。
そして、その職人の一部が周辺に多くあった「桐」を材料とし、「豊富な水」を活かして人形作りを始め、農家の兼業として広まっていきました。
幕末には、岩槻の専売品に指定されるほどの重要な産業になりました。
観て、創って、食べて、楽しい!「人形のまち岩槻 まちかど雛めぐり」
さて、江戸時代の歴史と背景が「人形のまち」として発展した岩槻ですが、今では一年を通して雛人形の行事が行われています。
なかでも「まちかど雛めぐり」は、岩槻雛人形の大イベントです。
古くから受け継がれた貴重な雛人形が神社や商店に飾られたり、体験教室やフォトコンテストが開催されたり、ひなまつり限定メニューが販売されたりと、街じゅうがひなまつり一色になります。
ぜひ一度は見ておきたいおすすめのスポットは、愛宕神社(岩槻駅から徒歩5分)の大雛段飾りです。
「まちかど雛めぐり」期間中の土日祝限定で、本殿に続く27段の石段に350体以上の雛人形が飾られます。迫力あるひな壇は多くの人を楽しませています。
迫力に圧倒されながらも、一つひとつ違う表情をする雛人形を見ていると、職人が心を込めて作り、大切に保管してきた人形の温かさに、やさしい気持ちになることでしょう。
下から見上げる迫力もすばらしいですが、本殿から見下ろすと、見たこともない角度の雛人形が見られ、いつもと違った楽しみ方もできます。
人形供養祭は毎年11日3日
大切にしてきた人形に最後まで感謝をしてお別れしたいですよね。
たくさんの思い出に「ありがとう」の気持ちを込めて行うのが、人形供養祭です。岩槻で雛人形の供養ができる場所をご紹介いたします。
日本一高いピラミッドひな壇で有名な【鴻巣】
つづいてご紹介するのは、約380年の歴史がある「鴻巣の雛人形」です。
埼玉の雛人形を代表する「鴻巣雛」は質の良さが評判となり、江戸から職人が修行にきたといわれています。
京都の西陣から生地を買い付けて「鴻巣雛」を作り、「着物の着付けは関東一」と称賛されるほどでした。
その高い評価は、「関東三大雛市」(江戸十軒店、鴻巣、越谷)といわれるまでに大きく発展をし、明治時代には多くの人形店と職人で賑わいます。
今もその歴史は守られ続け、老舗人形店が人形町(鴻巣市人形)で「鴻巣雛」の伝統を伝えています。
鴻巣の雛人形といえば、「日本一高いピラミッドひな壇」が有名です。無病息災を願う「鴻巣びっくりひな祭り」のメイン会場で、まさに「びっくり」な大きさのピラミッドひな壇が展示されます。
その大きさは、ひな壇31段、高さ7mです。その巨大なひな壇には1,655体もの雛人形(2021年)が飾られ、多くの雛人形の視線にも驚かずにはいられません。
ピラミッドひな壇は1階の会場から見上げるだけでなく、2階や3階の階ごとの楽しみ方にも魅力があります。大迫力のピラミッドひな壇を見ていると、疫病を退散するようなパワーを感じるでしょう。
人形供養祭は毎年11月14日
鴻巣では、毎年11月14日の「埼玉県民の日」に人形供養が行われます。
きらびやかで優雅な顔立ちの雛人形【越谷】
つづいては、「関東三大雛市」といわれていた町のひとつ、「越谷」をご紹介いたします。
越谷の雛人形は、1983年に埼玉県の伝統的工芸品に指定されました。
200年以上前に「会田佐右衛門」が、江戸十軒店(現・日本橋室町)で人形作りを学び、越谷で製作を始めたのが由来といわれています。
そのお店は現在も続く老舗店で、「元祖・越谷びな」の伝統を守り続けています。
越谷の雛人形は関東風といわれ、京都とも江戸とも違う、気品ある顔立ちときらびやかな装いが特徴です。
また、官女や五人囃子の袴のはかせ方も異なります。この特徴は一つひとつ手作りだからこそ、熟練した職人の技とセンスが反映されたのでしょう。
今でも、200年以上続く伝統製法で細部まで丁寧に作っています。
よく見比べると、少しずつ表情も異なります。大人っぽいものから可愛らしいものまで、時代に合わせて表情が作れるのも、手作りだからこそですね。
東武線北越谷駅から徒歩5分ほどの「越谷香取神社」では、江戸時代から平成までの約500体ある雛人形を展示する、ひなまつり行事があります。
また、3月3日のお茶の席では、美しい雛人形を眺めながらお茶を楽しむことができます。優雅にたたずむお雛さまに、おだやかな時間を過ごせますね。
人形供養について
越谷では、久伊豆神社と越谷香取神社で人形供養祭を行っています。
雛人形の原型ともいえる人形作りが始まったとされる【所沢】
さいごにご紹介するのは、「所沢の雛人形」です。
雛人形の原型となる人形作りは、江戸時代から始まりました。その人形作りは、所沢から始まったといわれています。所沢は「雛人形の故郷」ですね。
所沢には、伝統と進化を兼ね備えた職人たちがいます。幼いころから雛人形に触れてきた女性職人たちが、特別な思いで作る伝統雛人形がある一方で、所沢のゆるキャラ「トコろん」の雛人形も作っています。
「トコろん雛人形」は伝統雛人形と同じ着物を着せて、ゆるキャラファンを魅了しています。
また、雛人形作りの全工程をひとりで行う、全国でもめずらしい職人もいます。その職人が作る雛人形は、お客様の帯を使って作ることで話題になっています。
祖母の帯で作る孫の雛人形や、成人式の晴れ着帯で作る娘の雛人形など、全国から集まる帯は形を変えて特別なものとなり、多くの人に喜ばれています。
伝統を未来へと繋げる所沢の雛人形は、これからの進化にも期待が膨らみますね。所沢で人気のひな祭りイベントは、「所沢のひな祭りー野老澤雛物語」です。
このイベントは、街全体がまるで博物館にいるような雰囲気になります。
江戸時代後期から現代までの雛人形を展示する「野老澤町造商店」では、さまざまな雛人形を見比べる楽しさがあります。
また、商店が飾る雛人形や園児たちが描いたひなまつりの絵は、街を華やかに彩ります。人形の始まりと進化する雛人形に触れられ、お気に入りを探す街歩きも良いですね。
人形供養祭は毎年6月
所沢で行われている人形供養祭をご紹介いたします。
埼玉の雛人形を家族で楽しもう!
いかがでしたか?
埼玉の雛人形が出荷額日本一なのは、歴史や風土がきっかけとなり、職人の匠な技とひなまつりをみんなで楽しもうとする街の心が築いてきました。
伝統を守りながらいつまでも大切に思う雛人形への愛が、日本一であり続けています。
ひなまつりは子どもの成長を願うだけでなく、街を歩きながら思い出を語りあう大人の楽しみ方も良いですね。子どもも大人も楽しめるひなまつりを、ぜひご家族でお楽しみください!
埼玉で生まれ育ち、40年以上埼玉に住む、生粋の埼玉人です。埼玉の魅力を楽しく発信していきます!